the road of old common
2009-2010 JPN
軒先をくぐり、息を切らしながら開けた尾根に出た時、「こんにちは」の挨拶につい故郷のイントネーションがでた。
2004年、紀伊山地の霊場と参拝道が世界遺産登録された。そこは、自然崇拝に根ざした神道、日本で独特の展開を見せた仏教、それらが結びついた修験道が、混在しながら育った稀有な地域だ。
なかでも、弘法大師が開いた密教の聖地高野山と、熊野本宮大社を結ぶ参拝道は「小辺路」と呼ばれている。もともとは山深い地域住民の生活道であった道が、近世以降に「庶民の参拝道」として使われだしたのだという。
ある集落で曽祖母ほどの年齢の方とお話した後のこと。木陰の冷たい空気と泥濘む道を登り終えて一瞬国道に出たとき、後ろで”馬"の鳴き声を聞いた。距離にして10mくらい。近い。何の疑いもなく辺りを探したが姿はない。よく考えれば、あの地に野生の馬はいない。不思議な経験の真意は未だに分からない。
霧の中で遠くの露音さえ聞こえそうな時間や、何者かの視線を常に感じるエリアに歩調が早まる時間もあった。原風景がそのままあるわけでもなければ、テーマパークでもない。
現代の風俗と、ありし日の信仰を行き来する往来。
軒先をくぐり、何かを補完しながら、挨拶を交わして。

